ボルドー散策

寝すぎた

結局、初日の移動中の睡眠というのは、飽くまで睡眠だけ、であったようで、ゆっくりとベッドで寝ることとなると、これはまた別勘定というものであったようだ。7時にかけていた目覚まし時計を止めたのは覚えているのだけれども、そのまま10時半頃まで寝過ごしてしまった。ああ、ボルドーは実質今日しかいないのになあ、と思いつつも、シャワーを浴びて、おおよそ11時頃に宿を出る。
とりあえずはまず、ボルドーの中心にあたるカンコンス広場(Place de Quinconce)を目指す。ここは、ボルドー市長としても活躍し、ユグノー戦争後期のフランス政局にも陰ながら関わったミシェル・エーケム・ド・モンテーニュ(Michel Eyquem de Montaigne)と、同じくボルドー出身であった啓蒙思想家で法曹家でもあったモンテスキュー男爵(Charles Louis de Scondat, Baron de Montésquiue et la Brède)の二人の像が公園の南北に向かい合って立っている。広場の西にはフランス革命時に活躍したボルドー出身の党派ジロンドの記念碑があるのだが、これは工事中。それにしても、カンコンス広場はいわゆる広場が緑に満ち満ちているのに対して、あっと驚くほどに殺風景きわまりなかった。これでいいのかってくらいに、今挙げた像が唯一のもの。あとは、見るべきものとかではなくて、何もない。
そのまま、ボルドーの目抜き通りである聖カトリーヌ通り(Rue de St. Catherine)を通る。さまざまな店が立ち並び、人もたくさん歩いていて、実ににぎわっている感じ。途中のブラッスリーで昼食。タルタルステーキを頼んだが、なんとなくこれってユッケがヨーロッパに伝わったものなのか、という感じもするけれども、そのあたりはよくわからないから、どうなんだろうか。以前ランスの街で食べたときの記憶は薄いのだけれども、ここでは卵が上に乗ってきた。ただ、基本的に味付けがあまりされていなかったので、食べるときには葱を刻んだものと一緒に食べるとうまいと思った……それって、つまり生のハンバーグ種ということだろうか。なんとなく、そうあるべきなのか不安になった。
ペイ・ベルランからの眺望:薄曇り
食後、聖アンドレ大聖堂(Cathedrale St. André)の近くにあるペイ・ベルランの塔(Tour Pey- Berland)に行く。何だか、毎回の旅行でこうした塔に登っている気がするのだが、今回の塔はある種いちばん狭苦しい感じがした。ひたすらの螺旋階段は220段ほどあるようなのだが(数えたわけではなくて、ちらりと見たパンフレットにそんなことがあったような気がしたのだ)、地上40mと50mのところにテラスがある。このテラスからの眺望で、だいたいのボルドー感を掴もう、という理由づけはできるのだが、そうはいっても、ただ単に塔があるから登ってみた、程度のものである。
そのまま、隣にある聖アンドレ大聖堂を訪れたが、こちらはいたって普通の教会、という趣。

ミュゼーを巡る 1.美術館

続けて、土曜日だからか閉まっている市庁舎を横目に、ロアン宮(Palais Rohan)は名前だけにちらりと反応して、これがマリ=アントワネットに懸想をし、首飾り事件に巻き込まれたロアン枢機卿と関係があるのだろうかなあ、などと思いながら、ボルドー美術館(Musée des Beaux- Arts)に入る。美術館は、なんと19世紀から20世紀にかけての主要作品は現在展示していない、ということであったのだが、それは詐欺ではないか、と思いつつも、まあ入る。やはり、首都級の美術館と較べると貧弱の印象は免れないもので、ロイスダールの風景画なども結構あったのだが、風景画は結構不真面目に見流してしまった。
その中で、おもしろかったものだけ話をすると、次のようなものが印象に残った。まず、ルーベンスが描いた「聖ユストの奇蹟」は聖ユストが斬られた首をもって歩いているシーンを描いたもので、どう見ても半裸のデュラハンとしかいいようがなかった。ファン・ムール(Jean- Baptiste Van Mour)というネーデルラント系の画家は、それほど上手い絵描きというわけでもなかったのだけれども、1724年10月10日にフランスの使節アンドルゼル子爵(Vicomte d'Andrezel)がトルコのスルタン・アフメット3世に歓待されたということを2枚の絵に描いている。ゲーテ像で有名なティッシュバインが描いたオラニェ・ナッサウ公妃フレデリック・ルイーズの絵は、ヴィジェ=ルブランが描いたマリ=アントワネットによく似た可憐な感じの美少女になっていて、印象的だった。ゲラン(Pierre Guérin)のギリシア古典劇を題材にした、アンドロマケー、パエドラ、ディドーの3枚の絵も素敵だった。逆に見ることができずに残念だったのは、ドラクロワの「ミソロンギの廃墟に立つギリシア」で、以前オルセーかルーヴルで「民衆を導く自由の女神」を日本展示中で見ることができなかったのと考え合わせると、どうもドラクロワとの相性はあまりよくない。

ミュゼーを巡る 2.アキテーヌ博物館

続いて、アキテーヌ博物館(Musée d'Aquitaine)を訪れる。こちらは、郷土資料館というと語弊があるのだが、どちらかというと国内の、フランス人向けの博物館という感じがする。表示は基本的にはフランス語だけ、重要なものは英語も併記、という感じ。ただ、先史時代の考古学的なものには、ヴィジュアル化したり復元予想をつけたりと、わかりやすさという点では工夫が結構されている。ネアンデルタール人クロマニョン人の胸像が並んでいると、ああなるほど随分と違うわい、と思うしね。
このボルドーを中心としたアキテーヌ地方、先史時代から見るべきものはたくさん持っているのである。というのも、ペリゴール地方ではあるものの、ラスコーの洞窟壁画は近い距離にあるし、クロマニョンも近いあたり。先史時代のものは豊富にあるわけだし、実際レプリカだとは思うがラスコーの壁画も随分とあった。また、ドルドーニュの聖母と呼ばれる大地母神のような豊饒を願うでっぷりとした女性像も、有名な「ドルドーニュの聖母」ではないものの、類似したものが展示されていた。続いて、ガロンヌ川を遡ってきていたのか、ギリシア人の残したものも随分とあるし、ローマ時代にはブルディガラと呼ばれた都市を形成している。これがボルドーの母体だ。当然、ローマ時代の遺物もたくさん展示されている。
ボルドーというと、アキテーヌ地方の中心都市であり、アキテーヌといえば百年戦争前までは英領として、プランタジネット家が大領主として君臨していたところ、という印象が強かったので、当然そういったアングロ−ガスコン的な遺跡がボルドーにはいろいろとあるものだと思っていたのだが、残念ながら市内にはさほどそういったものが見当たらず、結局、この博物館の中に1コーナー設けられている程度であった。エドワード3世の貨幣、エドワード黒太子時代の貨幣などの鋳造貨幣と、アリエノール・ダキテーヌの石棺というか墓碑というか、このあたりが見ものという感じだったが、いささか肩透かしをくらった感もないではない。
その後も、大航海時代が来ると、フランスはいささか乗り遅れた国ではあったのだが、それでもアンティル諸島オセアニアのあたりなどに植民地を得て、その植民地国家フランスの外港として大西洋に近いボルドーは栄え、それが反映される展示も多くある。生活文化の展示のところにも、一際異色さを発するアフリカやオセアニアの民俗紹介などがあって、それはそれでおもしろかった。がまあ、話を戻すと、その後もフランス革命ではボルドー出身者たちがジロンド党を結成する中心となったり、と割と歴史に関してはネタは事欠かない感じで、展示も尻つぼみになることもなく豊富。生活文化のところでは、葡萄絞り機なども展示されていて、葡萄王国ボルドーらしさを感じたし、ボルドーワインの広告などもおもしろかった。
ボルドーを観光する場合、まずここでボルドー自体を知ってから周るほうがおもしろいかもしれない。

ミュゼーを巡る 3.関税博物館

ガロンヌ河畔
アキテーヌ博物館を後にして、遊覧船にでも乗ろうか、と思ってガロンヌ川沿いに行くが、残念ながら遊覧船が出そうにもない雰囲気であったので、川沿いに南に歩くと、証券取引所広場(Place de la Bource)に出くわす。証券取引所自体はもうないのだが、そのかわりに税関博物館(Musée national des Douanes)を見つける。これまたフランス語の説明だけなのだが、ちょうど今オンラインゲームでこうした時代(実際には、ルイ14世の時代くらいから、早くともアンリ4世の時代からのようなので、少し遅いのだが)の取引所などを舞台にしていたりするので、ああ、こんな感じか、という感覚がつかめておもしろかった。あと、日本の根付が妙にたくさん展示されていて、うーん、この訳語でよいのだろうか、と少し首をひねるようなものもあった。
その後は、ぶらぶらと街を散策。なんとなく、街の路面電車のことはつかんだものの、そう歩くような距離でもないので、ついつい乗らずじまいで済ましてしまったのが残念。明日、駅にゆくときには使おう、と思うものの、乗り換えが必要になるのがわずかに面倒かもしれない。あとは、本数か。

ワインを購入

ボルドーを去る前に、と思ってワインを買いに行く。ワイン専門店に入ると、これがまたすごいことに、5階建てほどのそう広くはない建物の壁という壁にワインがある。昔、ほんのわずかにワインの銘柄をかじったことはあったものの、Château Margauxがよかったっけか、Rothschildのはどっちが良いのだろうか、という程度の知識。よくわからないのであるが、それならばと思ってChâteau Margauxを見るが、200ユーロとかがざらにある。日本円にして30,000円くらい。ぽんと置いてあるのねー、と思いつつも、そのあたりはさすがに持って帰る手間隙心配を考えるとやってられないので、手ごろな30ユーロくらいのもの、だいたい日本円だと4,500円ほどかというChâteau Margauxの安いものを購入。
ワイン専門店