アラゴンの都

サラゴサ

朝目覚めると8時半。一瞬どきっとした。目覚ましは7時にかけていたのに……と。多分、ワインを半ボトル、それ以前にも結構お酒を飲んでいたというのに飲んだのがよくなかったような気もする。体調が悪い悪い言っているのは、ただ単に酒ばかりくらっているからではないか、という気もするのだが、ついつい昼からビールを頼んでいる日々。
機能的で高級感溢れる部屋との生活も今日が最後。ACシウダッド・ホテル・ダ・パンプローナから、ちょっと早いとは思いながらも、同じく時間をつぶすなら、焦らないで済むバス・ステーションがよいなあ、と9時ちょっと過ぎに出発。案の定、バス・ステーションに到着したのは9時半頃で、そのまま10時15分まで待つことになる。
バスに乗るときに、日本人の夫婦ものらしい人たちを見かける。この旅で見かけた日本人は、まだ10人に満たない。だいたい、夫婦単位で見かけているけれども、それにしたって2組か3組目で、やや日本人には人気の薄いところを旅している感じがする。まあ、『地球の歩き方』でも地図は割と概略のみ、というようなところだからなあ。
前日もバスに乗っていて思ったのが、イスパニアの田園光景がフランス、イタリアとちょっと違うということ。同じようにだだっぴろく畑地めいたところが広がるものの、フランスやイタリアならどこかしらにいる牛も馬もいないのだ。動物がいないのは哀しいなあ、と思って窓外を眺めていると、ふと白いものが……アヒルはいた。でも、それだけで、牛も馬もブタも見かけない。残念である。犬も、案外見かけないし。見ないわけではないのだけれども、そのへんにぽてぽてと歩いてはいない。猫も。
もう一つは、イスパニアのこの少し山がちなピレネーに沿った地域では、風力発電めいた施設が散見されることで、とくにアラゴン州に入ったあたりで、ものすごい数の風車の群を見かける。風車といえばドン・キホーテだけれども、もっと軽やかな感じの、素材はなんだろうなあ、というような、そんな風車。
途中のトゥデーラ(Tudela)という街あたりまで、ナヴァラの街だったと思うのだけれども、この辺りではもう、バスク語との併記がなくなってきて、スペイン語だけ、という表記に変わってきた。バスクの地域から抜けたのだなあ、という感じもする。10時20分のバス発車から2時間かけた12時20分頃に、アラゴン州の州境を越える。黄色の地に赤い線がひかれた、アラゴンの紋章が迎えてくれる。

シエスタと雨

バス・ステーションからなんとなく歩き出してみるものの、さっぱり方向もわからないのに歩いてどうするんだ、と正気に返ってバス・ステーションに踵を返す。とりあえず、タクシー捕まえて宿まで連れて行って貰おう、と思って周囲を見回すと、小奇麗な建物が見える。よくみると、Estación Delicias 、つまりこの街の鉄道駅ではないか。『地球の歩き方』でも駅からは相当遠い、ということが書いてあったが、よくも歩いてどこかに行こうとしたものだ、と駅の前にたくさんいるタクシーの一台に乗る。だいたい6ユーロほどでホテルにたどり着く。ホテルは観光名所の集まったピラール広場の裏手にある割と場所のよいところだ。
ピラール聖母教会 ラ・セオ、手前はゴヤ像
入ってみると、下手するとACホテルの洗面所の広さ……ほどではないにせよ、それに近い狭さの部屋である。まあ、一人で過ごすことを考えるとこれで十分な広さなのだが。ACホテルの半額以下の40ユーロ強のホテル。今回は、ホテル探しがうまくゆかずに、軒並み高いところばかりだったが、今回だけはお手ごろ価格である。とりあえず、荷物を置いてから昼食をとりに出かける。
昼食はバールでカタクチイワシのフライをさかなにビールを2杯。だいたいそれで15時くらいなので、シエスタ・タイムだ。だから自分も一休みしようとホテルに帰って昼寝する。ちょうど、日は出ているのに、ポツリポツリと雨が降ってきたなあ、と思っていたら、ホテルの中で聞く音では雷が鳴って夕立がざーっ。夕立っていっても、まあ、時間ばかりは16時近くとも、ここでは夕方ではないのだけれども。

教会めぐり

ただ、身体のほうは休めの信号を受けたばっかりに、何か休みきらないような感じで、それでも本当は1時間だけ休むところを2時間休んで、17時に宿を出る。まずは、ピラール聖母教会(Basilica de Nuestra Senora del Pilar)を訪れる。聖ヤコブ、つまりスペインの守護聖人の一人サンティアゴがエブロ川のこのあたりにいたときに、聖母マリアが現れて「信仰の礎」として柱を授けた、という伝説があり、その柱、柱がピラールなのだが、その柱を納めるために作られたのがこの教会、なのだそうだ。柱と聖母像を納めている礼拝堂は特別な感じで、ちょうど教会の中にさらに卵状に核がある、といったような感じに設けられている。
併設の博物館、といっても実に1コーナーなのだが、ここにはそのピラールを年に一度宝石などで飾るピラール祭のときの装飾品が展示されていて、宝飾品がきらびやかに並んでいる。
ピラール聖母教会から市役所(ちょうど、2008年の万博はサラゴサで開かれるのか、そんな表示がされていた。テーマは水とかそんな感じだったかな)を挟んで隣側に、ラ・ロンハ(La Lonja)という昔の穀物取引所の跡がそのまま利用されている展示場がある。ちょうど教会からでるときにまた俄か雨が降ってきて、慌ててラ・ロンハに入る。中では、またも現代美術の展示がされていて、Chillidaという人の抽象的な作品が並べられていた。スクリーンで、制作風景が映されていたのだけれども、まじめな顔して意味不明なものを作っているようにみえて、若干滑稽でもあった。
そして、もうこのピラール広場沿いのもう一つの名所である大聖堂、ラ・セオ(La Seo)に向かう。こちらは、入り口は広場に面していなくて、ぐるりと周ることになったのだが、中に入ると随分とお金をかけているようで、ひとつひとつの礼拝堂にしっかりとした掲示をつけていた。併設のタペストリー美術館は、ギリシアの伝説や聖書の話などを「当世風」の、つまり16世紀風の衣装のままで織り出した、いかにもタペストリーという作品が並んでいて、へーえ、という感じであった。

今日のスペイン語

boquerón 鰯

frito フライ

croqueta コロッケ

pulpo 蛸

gamba 海老(芝海老の類)

ciudad 都市

estación 駅

ajo 大蒜

bacalao 鱈